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三つのお願い

 かなーり今更ながら、電撃掌編王に出し忘れた作品を発見したので晒してみるテスト(何


 てなわけで、手癖で書いたものですが暇つぶしにでもどうぞー(ぇ




 今日は1枚しか進まず現在55枚……。



 一つ、私以外の女を見ないこと。
 一つ、私以外の女と会話をしないこと。
 一つ、何があっても私との約束を最優先にすること。

 これは長いこと友達以上恋人未満だった彼女、美樹と晴れて付き合うことになった日に彼女から出された、お願いと言う名の命令だった。
 大してモテない俺にとっては問題ない。正直そんな風に軽く考えていた。まさか美樹も、これを完全に守れるとは思っていないだろうと高をくくっていた部分もある。
 しかし彼女は本気だった。
 俺が安易に了承してしまった三つのお願いに後悔したのは、その日のうちだった。

「いらっしゃいませぇ。ご注文をどうぞ」
 学校帰りに寄ったいつものファストフード店。見事な営業スマイルでマニュアル通りの言葉を口にするバイト女子高生に「チーズバーガーセット二つで」と答えた。
 いつものでいいんだろうと思って注文したんだけど、どうやら美樹は何か気に入らなかったらしい。振り向くと下から睨み上げるような鋭い視線を俺に向けていた。
「もしかして他のがよかった?」
 普段の愛らしいクリクリとした瞳から一転、美樹の目は尋常じゃなかった。今まで長い友達付き合いをしてきた中でも見たことの無い、恐怖感すら覚えるような目つきだ。
 店員が奥にオーダーを告げるのを聞きながら、俺は突き刺さる視線に耐え出来上がりを待った。その間に今までの自分の行動を振り返ってみる。
 店に入るまでは美樹に不機嫌さの欠片もなかったはずだ。ずっとニコニコしながら俺を見てて、実に可愛らしいものだった。ここに見落としはないはず。不用意な発言もしてない。なのになんで美樹は急変したのだろうか。全くもって理解ができない。
「お待たせいたしましたぁ。こちらチーズバーガーセットでございまぁす」
 こっちの思考など露知らず、店員は二つのトレイをカウンターに差し出してきた。
 俺は「あそこでいいよね」と逃げるようにそそくさと席へ急いだ。

「美味いよね。ここのチーズバーガーってさ」
 さっきから何度も会話を試みるものの、美樹は無言を貫き通していた。視線こそ少し緩くなったものの、相変わらずプレッシャーはきつい。チーズバーガーには手をつけようともしていなかった。
「あ、あのさ」
 恐る恐る声をかけると、美樹はトレイに落としていた視線を俺に向ける。。
「何で怒ってるのか理由を言ってくれないかな? 俺が悪いなら改善もするから」
 しばらくの沈黙が俺たちの間を支配する。学校帰りの高校生たちでごった返す店内なのに、誰もいないような感覚だ。
「……った」
「え?」
 美樹の声は小さすぎて、俺は思わず聞き返す。が、それが美樹の感情を爆発させてしまったらしい。小さなテーブルを思いきり両手で叩きつけながら立ち上がり、店内中に響き渡る大声で叫んだ。
「約束破って他の女を見て、更に喋ったじゃないっ!」
 キーンと耳鳴りがするほどの叫び声に周囲の視線が集まり、俺の脳は活動を一時停止した。
 他の女を見た? いつ?
 他の女と喋った? どこで?
 二つのキーワードを拾い上げ、回りだした脳はやがて一つの答えを導き出した。いや、あくまで一つの可能性止まりだろ、こんなもん。
「もしかして、さっきの注文?」
 たっぷりと時間をおいて、美樹は神妙にうなずいた。
「ちょ、それ本気?」
「うん」
 今度は真顔で即答。
「あ、あのさ、こんな事も約束破りになるの?」
「なるの」
 真っ直ぐ見つめてくる美樹に、背中に嫌な汗が流れる。恐らく彼女は本気だ。
「社会生活を営む上で避けて通れないと思うんですが」
 腰が引けて思わず敬語になる俺に、美樹は明後日の方向を見ながら自信満々に言い放った。
「大丈夫」
 何をどうすれば大丈夫なんだっ。心の突っ込みは口から出てはくれない。
「とにかく約束は約束。守ってね?」
 不満が顔に出ていたのか、美樹は有無を言わせぬ笑顔で俺を見る。目が笑ってなくて怖いのです。
「……努力します」
 恐らくこれが出来うる最大限の回答だろう。しかしそんな俺に美樹はスッと目を細めた。
「努力なんかいらない。私は結果が欲しいだけ」
 喉もとまで「ご無体な」なんて言葉が出かかったけど、辛うじて留める。今の美樹に通じる言葉はたった一つのはずだから。
「……はい」
「よしっ。だったらさっきの事は許してあげる」
 そんな大げさなことなのかとは思いつつ、可愛らしい顔に戻った美樹を見てホッとしていた。どんな理不尽な事を言われても、やっぱり俺は美樹が好きなんだもん。
 その時、横を通っていった女性が目に入った。いや、入ってしまった。
「けーんじくーん。今、何を見たのかなぁ?」
 地獄の底から響くような、恐ろしく低い声に目を合わせられない。
「ごめーんっ。でもこれは不可抗力なんだぁっ!」
 席を蹴り倒すように立ち上がり、言い訳を連呼しながら走り出した。
「あんな約束、簡単に頷くんじゃなかったぁっ!」
 後悔先に立たず。これほどまでに痛感したのは初めてだった。

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